アメリカが中国に世界の覇権を奪われない可能性――中南米からの移民の流入

アメリカが中国に世界の覇権を奪われない可能性——中南米からの移民の流入

 

 アメリカ帝国主義が中国帝国主義に世界の覇権を奪われない可能性がある。それは、アメリカへの中南米からの移民の流入が激しい、ということにもとづく。

 移民の流入が重要なのは、なぜか。それは、移民の流入が、資本制生産にとってもっとも重要な、資本のための搾取材料を、すなわち資本がその生き血を吸う対象をなす労働力の担い手=賃労働者を、移民・および・出生率の高いヒスパニック系労働者の子どもというかたちで、アメリカ帝国主義が手に入れる、ということを意味するからである。

 次の報道に着目しよう。

 その表題は、<中南米からの不法移民 今年だけで200万人超。大群に混じり「命がけで北上する中国人」も急増>である(ヤフー・ニュース11月3日。筆者は、安部かすみ ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者)。

 

 <アメリカ国内の大都市では亡命希望の移民が急増し社会問題になっているが、そんな今も、アメリカへの入国を試みるためメキシコとの国境へ北上する移民の数は増え続けている。

 そのような移民キャラバンはバイデン政権下の2021年以降急増しており、月ごとの数は20万人超。昨年は1年間で221万人がメキシコとの国境から不法入国した。今年は現段階ですでに205万人を超えるなど、2年連続で200万人超えとなっている。

 上記の数は米南部の国境から不法入国した人だけの数であり、正式なプロセスで検問所を通過した移民や、ウクライナアフガニスタンなどほかの地域からの移民や難民の数は含まれていない。

 なぜこれほど多くの不法移民が大挙してアメリカに押し寄せているのかについて、ニューヨークタイムズ(先月29日付)にはいくつか理由が書かれている。

 まず一つは、米政府の政策の変更だ。コロナ禍で適用されていた移民政策「タイトル42」は感染拡大防止を理由に、不法に国境を越えようとした亡命申請者を米国内に滞在させず即時に強制送還するものだったが、今年5月に失効した。

 また関連諸外国の不安定な情勢(政治や経済の崩壊、治安悪化など)も関係している。さらに単独ではなく家族と共に越境を試みる移民が増えていることも、人数増加の要因になっている。

 不法越境を防ぐために、バイデン大統領は先月5日、最長約32キロメートルの新たな「国境の壁」の建設を再開する方針を発表した。国境の壁はトランプ前大統領が推し進めた政策の一つだったが、バイデン大統領は就任初日に建設中止を宣言していた。しかし次期大統領選を前に、不法移民対策の方向転換をした形だ。

 違法越境の移民の出身国は?

 移民キャラバンの出身国について、前述のメディアによると、歴史的に見てメキシコが圧倒的に多かったが、この10年間でエルサルバドルグアテマラホンジュラスが急増し、2020年ごろまでその4ヵ国が大多数を占めていた。近年はコロンビア、キューバニカラグア、ペルー、ベネズエラからの移民も増加している。

 加えてここにきて、意外なある国出身者が増えているという。それは「中国」だ。

 先月30日付のNBCニュースやAPなどは、「抑圧的な政治情勢や見通しが悪い経済状況から逃避した中国人移民が急増。危険なパナマのジャングル、ダリエン地峡を通過し、命がけでアメリカに向かっている」と報じた。

 ダリエン地峡を歩いて通過し北上する中国人の数は増加しており、今年1月の時点で913人だったのが9月には2588人に急増し、今年だけ(9月までの時点)で1万5567人にも上った。昨年は2005人だった。さらには2010年から21年までの合計376人と比べると雲泥の差だ。

 また、アメリカ・メキシコの国境警備隊が不法越境し逮捕した中国人の数は今年だけで2万2187人にも上る(9月までの時点)。これは昨年同時期の約13倍の数だ。

 未開のジャングルとして知られるダリエン地峡は、マラリアなどの感染症、毒蛇、ギャングなど犯罪組織による性的虐待や人身売買などさまざま危険因子があり非常にタフな場所とされている。今年の9月までにダリエン地峡を通過したのはベネズエラ人、エクアドル人、ハイチ人に次いで4番目に中国人が多かったという。

 このルートを通る中国人は、まずビザが不要なエクアドルに飛行機で入国する。その後、金を払った業者のサポートを得ながら、アメリカへ向け北上するという。このようなルートを辿る中国人移民の多くは家族を帯同しない独身の成人で、翻訳アプリの普及でスペイン語や英語が話せなくても移動は問題ないという。このような中国からの移民は、習近平国家主席憲法を改正して国家主席の任期制限を撤廃した2018年から増加し始めた。ただし、移民に混じって中国のスパイが潜入する可能性があると警鐘を鳴らす専門家もいる。>

 

 われわれは、ここに記されている対象をなす物質的事態を、それが資本制生産にとってもつ意味を明らかにするかたちにおいて、政治経済学的に分析することが必要なのである。

 

 メキシコのタパチュラで先月30日、米国国境を目指して大移動する人々。

 (写真:ロイター/アフロ)