スイス金融最大手UBSがクレディ・スイスを買収と発表——金融当局は危機回避に大わらわ
スイス最大の金融業独占体であるUSBは、3月19日に、倒産寸前となった同2位のクレディ・スイスを30億スイス・フラン(約3400億円)で買収すると発表した。これは、UBSが自社株1株とクレディ22・48株と交換するというものであり、クレディの株式の持ち主は、その株の時価よりは6割近く安い額に相当する資産をうけとることになるのであるが、とにもかくにもそれだけは受けとることができることは保障された。
金融危機の激発を回避するために、スイス政府は、UBSにクレディ・スイスを買わせたのである。
スイス政府は、両行が株主の同意がなくても統合できる緊急措置をとること、そして買収にともなってUSBに一定額以上の損失が発生したばあいには90億スイス・フラン(約1・3兆円)を保証することを表明した。スイス国立銀行(中央便行)もまた両行に最大1000億スイス・フラン(約14兆円)を融資する、と発表した。
ブルジョアジーの利害を体現するスイス国家は、その権力を行使して、金融業の独占体へのなんとも手厚い保護の手をうったのである。
クレディは、主要国の金融当局でつくる金融安定理事会(FSB)によって金融システムの安定上重要な銀行に指定されていた。各国の権力者と独占資本家どもにとって、クレディはどうしてもつぶすわけにはいかなかったのである。
アメリカのシリコンバレー銀行の経営破綻に端を発しクレディ・スイスの経営危機に連動した、全世界的な金融システムの動揺は、その根は深い。
日本銀行、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イギリスのイングランド銀行、カナダ銀行、そしてスイス国立銀行の6つの中央銀行は、19日に、協調してドル資金の供給を拡充する、と発表した。市場にドル資金を供給するオペ(公開市場操作)の頻度を、1週間に1度から毎日へと増やす、これを20日から実施し、少なくとも4月末までつづける、というものである。
いつ・どこで・どの銀行の倒産の危機があらわとなるかわからない、毎日、目をひからせ即刻対応できるようにしておかなければ、危なくてしょうがない、というわけなのである。
FRBが、インフレを抑えるために、順次金利を引き上げていく、というどころの話ではなくなった。各国の中央銀行は、インフレへの対応と金融機関の倒産の防止というジレンマにおちいったのである。金融諸機関の倒産の危機の胚胎は、生産の減退と資本の過剰の——生産設備の過剰と労働力の過剰というかたちでの——一挙的露呈をもたらす。各国の政府と中央銀行のおちいった政策的ジレンマは、インフレーションと生産の減退の同時進行というスタグフレーションへの転落の危機を根源としたものなのである。
新型コロナウイルス感染症の蔓延にもとづく生産の減退と株価の暴落というかたちで露呈したコロナ危機にかんしては、各国の政府と金融当局は、2008年の金融危機をのりきるために採った諸措置と同じものを、金融危機が激発する前に採り実施するというかたちでのりきった。彼らは、2008年の金融危機ののりきりおよびコロナ危機への対応によって膨れあがった金融的バブルのガス抜き、ロシアのウクライナ侵略とこのロシアへの経済制裁措置の実施、これらを根拠としていま進行しつつ世界的な金融システムの崩壊の危機を、同様の措置の実施によってのりきることができるのであろうか。
スターリン主義官僚専制国家から転化し帝国主義国家としてたちあらわれたロシアと中国は、インドなどのグローバル・サウス諸国を巧妙に抱きこみながら、西側帝国主義諸国に、軍事的・政治的・経済的に対抗している。東側帝国主義国の雄をなす習近平の中国は、2008年の金融危機ののりきりのときのように西側帝国主義国の経済を救済するために立ち上がることはもはやない。
東側帝国主義諸国と西側帝国主義諸国とそしてグロ-バル・サウス諸国との三極をなす現代世界のもとで、東側帝国主義諸国との軍事的・政治的・経済的抗争を深める、老いぼれたアメリカ帝国主義を盟主とする西側帝国主義諸国は、いま広く深く進行する金融危機とスタグフレーションへの転落の危機を、はたして食い止めることができるのであろうか。
西側帝国主義諸国、東側帝国主義諸国、グローバル・サウス諸国と、世界を席巻する諸資本のすべてに、資本制生産の本質的法則たる価値法則は盲目的に貫徹する。
みずからの危機をのりきるために労働者階級・人民への搾取と収奪と抑圧を強化する全世界のあらゆる国家権力と資本を打倒し、その根底からくつがえすために、全世界のプロレタリアートは階級的に団結しよう!