なぜ過労にまで追いつめられるのか

 今日の企業と過労

 

 新入生のみんなは、東芝の安部真生さんや電通の高橋まつりさんが過労でみずから命を絶ったことに強い関心をもっていた。

 大学を卒業し、めざす会社に入ったとしても、自分の夢がかなうとはかぎらない。こんなことになるなんて……。

 安部さんや高橋さんはそうとう追いつめられていたのだろう。夜、眠ることなく仕事をせざるをえなかったのだろう。

 彼らは、自分と同じように夢を追っていたのだろう。自分と同じ若者だった。彼らのことは、将来の自分のことだ。

 私はみんなに呼びかけたい。想像力を働かせよう。

 安部さんは東芝グループの会社でシステムエンジニアとして働いていた。直前の一か月の残業時間は103時間56分にのぼった。東芝側が遺族側にしめした報告書では、システム開発に遅れが生じたため、安部さんに作業が集中し、過重な負担がかかった、としているのだという。

 仕事は、厚生労働省が委託した老人介護のためのシステムの開発だった。安部さんは厚生労働省の役人との交渉・協議の場にも出ていた。その場で、役人から、システム開発の遅れにたいする叱責と早期開発の催促がなされたのであろう。安倍さんは、現場でシステム開発労働にたずさわる技術者=技術労働者であるけれども、その場では会社を代表する者として対応しなければならない。開発の遅れは、注文した先方との関係では、会社を代表する自分の責任であり、会社のなかでは、その業務を担当する自分の責任だ。役人の言葉は、厚生労働省という官庁そのものの指令だ。もしも開発の遅れの言い訳をしたら、この業務の委託を、競争する他の会社に取られてしまうかもしれない。そうすると、自分が会社に損害を与えてしまうことになる。安部さんは、役人の要請を自分一身でうけとめ背負い、夜も寝ないで開発の仕事をやったのだろう。

 安部さんは、老人が豊かな生活をおくれるように介護することを願ったのだろう。だが、資本主義的に激しく競争する企業のなかでは、そのような人間的な目的をもつだけでは済まないのだ。システムの開発という作業は思わぬ困難に直面する。そんな予定どおりにはいかない。時間がかかる。しかし、企業という組織は、そこで働く労働者にそれを許さないのだ。上司からの直接の命令や非難の言葉がなくても、企業そのものが労働者をしめあげるのだ。

 これは、企業が、みずから増殖する資本そのものであるからだ。資本である企業は、労働という・労働者の生き血を吸って肥え太っていくのだ。生き血を吸われた労働者は、過労というかたちで生気を失い、死に至らしめられてしまうのだ。

 自分がこのような存在であり、このような存在であることをくつがえさなければならない、ということを、マルクスの『資本論』に学んで、自覚しよう。私は、みんなに、こう訴える。