ウクライナの、壊滅させられた階級闘争の現実を突破するために

ウクライナの、壊滅させられた階級闘争の現実を突破するために

 

 ウクライナ・ヴェルホヴナ議会(ウクライナ最高会議)は、ロシアとの戦争を遂行するための戒厳令のもとで、2022年7月末に、労働者からその諸権利を奪う二つの法案を可決した。

 その一つは、すべての企業にたいして、労働者の10%までを「ゼロ時間契約」とすることができる、すなわち労働者は企業から呼び出しがあったときにのみ働くことができる(呼び出しがないときは無給)、とするものであった。

 もう一つは、従業員数250人未満の中小企業には国家労働法は適用されず、各労働者が企業と個別の労働協約を締結する、とするものであった。このばあいに、職場の労働者の解雇に拒否権を行使する労働組合の法的権限も取り除かれる、とされた。ウクライナの労働者の大多数は、この規模の企業で働いていた。しかも、大企業の資本家どもは、この法律が制定されたうえで、自企業を形式上この規模の諸企業に分割することを狙っていた。

 ゼレンスキーの与党「国民のしもべ」は、労働者たちの反対をものともせず、労働者・人民をゼレンスキーのしもべとするために、「雇用の極端な過剰規制は、市場自主規制と現代の人事管理の原則と矛盾する」と主張して、この法案を通した。

 ウクライナ議会は、「国民のしもべ」という名のゼレンスキーの党に支配され、日本の戦前の「大政翼賛会」と同じものと化していた。

 国際労働組合総連合(ITUC:日本の「連合」も加盟する国際組織)と欧州労働組合総連合(ETUC)は、あろうことか、いや労働貴族どもがにぎっている組織として当然のことと言うべきか、この労働者抑圧と労働組合破壊の張本人ゼレンスキーに、この法案に拒否権を発動することを訴えた。労働者を欺瞞するための茶番劇よろしく、戦争遂行の命令者であり資本家どもの利害の体現者であるゼレンスキーは、8月17日に、この法律に署名した。

 国際労働組合総連合のシャラン・バロウ書記長は次のようにのべていた。

 「ウクライナの労働者たちが国を防衛し、負傷者や病人、避難民をケアしているのに、彼・彼女らは自分たちの議会から攻撃されている。これはグロテスクだ」、と。

 この言辞は、労働者たちは自国を守るために戦い、またこれをささえるべきである、とする立場にたったものであり、議会は、労働者たちを戦争に動員するためにはもう少し労働者の身を案じているかのようにふるまうべきだ、と提言するものなのである。これは、戦争を遂行するための祖国防衛主義=反ロシアの排外主義のイデオロギーをつらぬいたものであり、西側諸国の独占資本家どもの手先である労働貴族としてのみずからの階級的利害を貫徹したものなのである。

 ウクライナ労働組合の幹部たちは、自労働組合の組合員たちを、戦闘に・あるいは・戦争の後方活動に駆りだしていた。

 ウクライナには二つのナショナル・センターがある。

 その一つはウクライナ労働組合総連合であり、ソ連邦時代の官製労組の流れをくんでおり、約290万人の労働者を組織している。

 もう一つはウクライナ自由労働組合総連盟であり、1993年に設立されたナショナル・センターであって、16万余の労働者を組織している。

 前者の幹部は、ゼレンスキーが諸法案に署名したあとで、「抗議やストライキが戦争と戒厳令のゆえに不可能である」、とのべた。これは、労働者たちを丸めこむための発言にほかならない。彼ら幹部どもは、組合員たちを戦争遂行のために動員し、労働組合を戦争遂行の後方隊に積極的に再編成してきたのだからである。

 後者の幹部は、ゼレンスキー政権に行動上でも名目上でももっと協力的である。この総連盟の代表であり国会議員であるミハイロ・ヴォリュネッツは、「戒厳令が解除されたあとでも、これらの労働諸法制を、誰も完全に覆すことはできないだろう」、とのべたのだ、という。これは、労働者たちをあきらめの気持ちにみちびくための言辞であり、いまは労働諸法制のことなど考えずに戦争遂行に邁進せよ、と労働者の尻を叩くものなのである。

 両者ともに、彼らの言辞と行動をつらぬいているイデオロギーは、祖国防衛主義=反ロシアの排外主義そのものなのである。

 両ナショナル・センターの幹部どもは、自分たちの労働組合と組合員たちを、国家権力者ゼレンスキーにさしだしたのだ、といわなければならない。

 日本でたたかうわれわれは、ウクライナのこの階級的現実を直視し、この現実をどのように突破すべきなのかを、われわれ自身のプロレタリア世界革命の立場をつらぬいて考察するのでなければならない。