ウクライナにおける戒厳令のもとでの労働者の闘いの破壊と労働組合幹部の「祖国防衛」の名による屈服

ウクライナにおける戒厳令のもとでの労働者の闘いの破壊と労働組合幹部の「祖国防衛」の名による屈服

 

 ウクライナでの階級関係と階級闘争にかんして、国際労働財団(JILAF)の「メールマガジン」は次のように明らかにしている(二〇二二年四月二八日)。

 「ロシアがウクライナへ軍事侵攻する前、」「ゼレンスキー政権は労働法改悪を推し進めた。」その「内容は、労働者の権利を全面的にはく奪するものとなっており、大規模な抗議行動、国際連帯の力によって、法案はとりあえず却下された。」

 「しかし、今年に入りロシアによるウクライナへの軍事侵攻が全てを変えた。ウクライナ国会は、3月15日に法案「戒厳令における労使関係の組織について」を採択、3月24日ゼレンスキー大統領が署名し、法となった。」

 それは、戦闘状態と戒厳令のもとでは、使用者は、労働者を解雇することができ、労働者に賃金を支払うことを停止することができ、さらに労使協定の効力を停止することができる、とするものであった。

 「メールマガジン」の筆者は、このことを怒りをこめて告発している、といえる。

 ここに紹介されていることにしめされるものは、戦争を開始した国家権力による労働者からの諸権利の徹底した剥奪であり、労働組合の実質上の破壊である。

 では、このことに、この筆者はどのように怒っているのであろうか。

 筆者は言う。

 「現場の労働者は、ウクライナの勝利のために懸命の努力を続けている。」「政権側は、労働組合の立場をよく理解し、組合の要求に応えるべきであろう。」

 これが、筆者の提言なのである。ウクライナの労働者は、戦争での自国の勝利のために努力すべきだ、ということを大前提として、政権側はこの労働者の努力に報いよ、ということを言っているのである。だが、ゼレンスキー政権は、ロシアとの戦争の勝利に向けて、労働者を兵士として、あるいは戦争に必要な物資の生産部隊として動員するために、労働者の諸権利を剥奪したのである。この戦争によって利益を得るのは、ウクライナの国家権力者と資本家どもなのであって、労働者はその犠牲になるだけなのである。

 筆者は、ウクライナの労働者と労働組合の立場を守るかのような言辞を弄しながら、これを煙幕として、結局のところ、労働者たちに、ウクライナ国家の勝利のために努力すべきことを勧めているのであり、ウクライナの国家権力者が、自分たちの利益のための戦争に向けて労働者・人民を国家として統合するために流布する「祖国防衛」のイデオロギーに唱和しているのである。

 筆者がおのれの支柱としている価値意識は、「祖国防衛」という民族主義的で排外主義的なものなのであり、労働者階級の立場にたつもの、すなわちプロレタリア的価値意識なのでは決してない。それは、あらゆる国ぐにのブルジョアジーの利害を代弁するものなのであり、ブルジョアどもからおこぼれをもらう労働貴族の価値意識なのである。

 筆者は、ウクライナ労働組合の指導者たちが、戒厳令下での労働者の諸権利の剝奪に完全に屈服したことを擁護し、その反プロレタリア性をおおい隠すために、この文章を書いているのである。

 筆者は、ウクライナナショナルセンターウクライナ労働総同盟(FPU)に所属するウクライナ郵便労組のスタロドゥブ委員長の発言を紹介している。

 この委員長は、「ウクルポーシュタ(ウクライナの公的郵便事業)の労働者はさらに戦時のボランティア活動に従事し、防弾チョッキの部品を準備し、それを縫ったり、偽装作業用の網を編んだり、互いに助け合い、人道支援物資を届けたりしている。戦時下であり、労働組合としては、全国民がロシアとの戦いに勝つという目的のために一つになることが必要と考えている。」と言ったというのである。

 これは、自労組の組合員である労働者たちを裏切って「祖国防衛」の立場に転落し、労働組合を戦争遂行隊に変質させ、労働者たちを戦争の後方活動に積極的に動員した労組幹部=労働貴族の自己正当化の言である。

 このようなものを良いものとして紹介し労働者たちを戦争のために洗脳するのが、労働貴族を代表する筆者の階級的役割なのである。

 筆者は、別のナショナルセンターであるウクライナ自由労働組合総連合(KVPU)に加盟する教育労組のトカチェンコ副会長の発言をも紹介しているのであるが、これはもっと悪い。先の者の発言よりもさらにいっそう反プロレタリア的である。

 この副会長は、「労組としては、受け入れるが、討論すべきという立場である。現在までの所、この法に基づいて労働者が首を切られたり、給与が支払われなかったりといったことは起きていない」と言ったのだという。

 これは、戦争を遂行している現政権を免罪するものであり、労働者たちを裏切り攻撃に屈服した自分たちを正当化するものである。考えてもみよ。労働者たちは兵士として、あるいは後方部隊として動員されているがゆえにこそ、首を切られていないかのように見えているだけのことである。

 筆者のこの紹介から見えてくるものは、ウクライナ労働組合の幹部たちは、ロシアとの戦争の勃発とともに、祖国防衛主義に転落し、労働組合を戦争遂行隊に変質させたのだ、ということである。

 ウクライナブルジョアどもの政権たるゼレンスキー政権は、ロシアとの戦争の勃発とともに、戒厳令を発し、これを基礎に「戒厳令における労使関係の組織について」という法を制定して、労働者たちから彼らの諸権利の一切を剝奪したのであり、二つのナショナルセンターに加盟するあらゆる労組の幹部どもは、「祖国防衛」の名のもとにこの攻撃に屈服したのだ、ということである。

 これが、現時点でのウクライナの階級関係および階級闘争の現状なのであり、悲痛にもウクライナの労働者たちが強いられている状態なのである。

 このことを、われわれは「メールマガジン」の記事から読み取ることができるのである。