前途多難な水素ステーションの設置

前途多難な水素ステーションの設置

 

 政府は、水素で走るFCV(燃料電池車)の普及をはかるために、小型の水素ステーションの整備にのりだす方針だという(読売新聞、10月30日朝刊)。

 FCVは、トヨタが、自社の立ち後れているEV(電気自動車)に対抗する狙いをもこめてその開発と生産に力を入れているものであり、水素ステーションは、また、同社が開発している水素エンジン車の普及のためにもどうしても必要不可欠なものなのである。だから、それの整備は、豊田章男が、「日本がEVに特化すると、日本の自動車産業はつぶれるぞ」、とヒステリックに脅して、政府に要求してきたものなのである。

 水素ステーションは、建設中のものをふくめて、全国に169か所ある。現在、主流のものは、工場でつくった水素を運びこみ、1時間で5~6台に充填できるタイプであり、整備費は約4億円かかる。補助金を使っても事業者は、約1億5000万円が必要になる、という。

 これにたいして、政府が来年度から新たに補助金の対象として加えようとしているのは、1時間の充填能力が1~2台のものである。このばあいには、ステーションの設置場所で水を電気分解して水素を製造するとし、1か所あたりの整備費は約1億5000万円かかるが、補助金を使えば約5000万円で済む、とされる。

 水素ステーションは、現在、東京都に23か所、愛知県に37か所あるというように、トヨタを支援するような配置になっている。これに小型のものを加える、というわけなのである。

 充填能力が1時間に車1~2台というのだから、FCVや水素エンジン車の普及のためには、膨大なステーションの設置を必要とする。しかも、その場所で、わざわざ水を電気分解して水素をつくるというのだから、膨大な電力を必要とするのであり、そんなことをするくらいなら、電気エネルギーをそのままEV(電気自動車)に使った方がいいじゃないか、ということにもなってくるのである。

 どうも、トヨタも参加する意向であるところの、オーストラリアやブルネイでつくった水素を液体水素にしてタンカーで日本に運んでくる事業、この水素を水素ステーションで使うのではないようだ。この水素を小分けにして陸路でステーション設置地にまで運ぶのは大変であり費用がかかるのだろう。

 日本独占ブルジョアジー総体の利害を体現する政府は、「水素ステーションの設置を急がないなら、トヨタは日本から海外に逃げるぞ」というトヨタの社長の脅しのゆえに、その設置を急いでいるのだが、その実現は前途多難である。

 日本の独占資本家ども総体も、トヨタの社長も、脱炭素産業革命に対応して自分たちが生き延びるために、労働者たちから剰余労働をどのようにして徹底的に搾り取っていけばいいのか、というように、その策をねっているのである。